ムカシトンボ

箱根の冬は寒さが厳しく、野山の虫たちは休眠しています。

ところが、川底の水生昆虫は休むことなく少しずつ成長を続けます。特に、湧き水が水源となっている流水では、水温や水量の変化が小さく、四季を通じて活動が続きます。

そのような流れにムカシトンボが生息していることがあります。ムカシトンボの幼虫は、流れの速い場所の石の裏に潜み、小さな虫を食べています。体は硬く、脚を縮めて死んだふりをした時は、小さな石のかけらのようです。

ムカシトンボの幼虫が特に変わっているのは、腹部の両側に4個ずつ発音やすりがあり、後ろ足とこすり合わせてギシギシと音をたてることです。指でつまむと音を出すので、外敵をおどかす効果があるのでしょう。

また、幼虫期間が約7年と大変長いのも特徴で、湧き水があり、水量の変化が少ない沢にしか生息しない理由も幼虫期間の長さによるものと思われます。

箱根山地では、標高200mから780mの間に9か所の生息地がありますが、いずれも小さな水域です。

ところで、トンボの仲間(トンボ目もく)は、イトトンボやハグロトンボなどの均翅亜目(きんしあもく)と、ヤンマやサナエトンボなどの不均翅亜目(ふきんしあもく)に分かれます。ところが、はねは均翅亜目、胴体は不均翅亜目に似たムカシトンボは、ヒマラヤムカシトンボとの2種類だけでムカシトンボ亜目を構成しています。化石で発見された原始的なトンボの特徴を整えていることから、「生きている化石」と呼ばれています。

長い地質年代的な環境変化に耐えて生き残ったムカシトンボが、これからも箱根の山に生き続けてくれることを願います。

ふるさとの仲間たち 箱根生きもの図鑑

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