ウグイ

トリボロドン・ハコネンシスは、芦ノ湖産の標本に基づいて付けられたウグイの学名です。学名は万国共通ですから、ウグイを通じて、世界の人がHAKONEを目にするのです。

ウグイは、産卵期が近づくと腹と体側に赤い婚姻色が目立ちます。このため、芦ノ湖では「あかっぱら」と呼びます。産卵は5月上旬ごろで、水面が盛り上がるほどの群れで行われます。仙石原では「ざっこ」と呼びますが、産卵集団を「よりざっこ」と言います。

今ではウグイが食卓に上ることはありませんが、芦ノ湖では少なくとも昭和39年(1964年)までは大量に漁獲されていました。湖沼学の父として有名な田中阿歌麿による大正7年(1918年)発行の「湖沼めぐり」には、「……非常にたくさんとれる魚は赤腹で、その漁期には、元箱根などでは小学校は休業というような騒ぎで、全村ことごとく男子は漁獲に、女子はその焼き方に従事するのであって、御殿場から富士の裾野にかけて販路を持っているのである」とあります。

焼いて干しウグイにしたそうですが、保存食として消費するだけでなく、近隣の農村との交易に用いられたようです。当時の料理法は煮びたしですが、骨まで柔らかくなり、丸ごと食べることができます。

芦ノ湖では主役をブラックバスやマスにゆずり、早川では数を減らしましたが、学術的にも民俗的にも大切な魚です。

 

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